◇洪水対策へ貯水容量強化 ◇実効性に疑問の声−−地域住民「話し合いの場を」 栃木、埼玉など4県にまたがる渡良瀬遊水地で国土交通省が策定を進めている、第2調節池の掘削計画が具体化してきた。 遊水地の貯水容量強化を名目に、現在の第2調節池を約500万~1000万立方メートル掘削する整備計画で、来年初頭を目標に策定するとしている。 実施が決まれば、90年の谷中湖完成以来の大型開発になるが、洪水対策への掘削の実効性を疑問視する住民団体などからは「不要な公共事業だ」と反発も出ている。 【塙和也】 遊水地は従来、足尾銅山から流れる鉱毒を含んだ土砂を沈殿化させ、東京も含めた利根川下流へ鉱毒が分散するのを防ぐ役割を果たしてきた。 また大雨の際、渡良瀬川や思川、巴波川から遊水地内に流入する水量を調節する機能も果たしてきた。 遊水地を管轄する国交省利根川上流河川事務所(埼玉県栗橋町)が、掘削計画の策定を進めた理由は当初、小山市生井地区の思川氾濫(はんらん)の危険性。 掘削方針を初めて明らかにしたのは今年6月30日、藤岡町で開かれた式典「谷中メモリアル100」の場だった。 鉱毒事件で廃村となった旧谷中村の記念式典で、掘削方針を表明したことに異論も出たが、同事務所は「(式典は)あくまでこれからの治水を語る場であったから、適切だった」としている。 同事務所は、現在遊水地全体で17180万立方メートルある貯水容量に、第2調節池を500万~1000万立方メートル掘り下げることで容量を増強、1947年の「カスリーン台風」のようないわゆる「200年に1回」の大雨でも、遊水地や利根川下流の住民への被害を軽減したい考えだ。 正式な掘削容量は、今年末か来年初めまでに決定することを目指しており、その原案を地域住民に公開したいという。 計画に対して、利根川流域の不要なダム開発などに反対している、元東京都環境科学研究所員、嶋津暉之さんは「洪水の危険性を減らすのに掘削は無駄な工事。 設計上、思川の河床は当初計画より高く、思川の河床を低くすることの方が先決」と反論する。 嶋津さんらの調査によると、02年7月の大雨では、同市乙女地区の思川水量が高位になっても、第2調節池には水がなかなか流れ込まず、結局、川は危険水位に達したという。 この調査によれば、仮に同年以上の大雨が続いた場合、思川は第2調節池の貯水量がいっぱいになるよりも先に氾濫することになる。 「思川は河床が適正値より約2メートルも高いのが問題なのであって、遊水地の掘削だけでは効果はない」と嶋津さんは指摘する。 さらに嶋津さんは、利根川下流への掘削による効果について、「仮に500万立方メートル分掘削しても、国交省が考える200年に1度の大雨で、利根川の栗橋地点の水量を4センチ下げる効果しかない。 遊水地があふれるより先に各支流の堤防が決壊する」と主張。 代替策として、各支流の堤防強化を提案している。 同事務所は、貴重種の宝庫とも呼ばれる遊水地の植生を保護するため、調節池を平面的に掘削するのではなく、部分的に深く掘削することなどで植生の保全も検討する。 掘削土は周辺の河川の堤防強化に流用することを計画しているが、環境保護団体などは、地下水枯渇などへの影響も懸念している。 嶋津さんらは、国交省に対し、整備計画の策定前に、地域住民と話し合う委員会を設置するよう求めている。 だが、同事務所は学識経験者や住民代表を交えた「渡良瀬遊水地湿地保全・再生委員会」の開催を、整備計画をまとめた来年以降とする方針を譲らず、双方の議論は平行線をたどったままだ。 8月24日朝刊 (毎日新聞) -