◇そつのなさには定評 高橋はるみ知事(52)が27日、再選に向け始動した。 道政史上初の女性知事となって3年8カ月。 行財政改革で「しがらみのなさ」を武器に大ナタをふるい、北海道新幹線着工や道州制特区推進法案の策定では与党とのパイプをフル活用するなど、眼前の課題は機に応じそつなくこなした。 一方で、元通産官僚として手腕が期待された経済活性化は途上で、地方の疲弊も著しく、北海道が目指すべき道筋は見えない。 高橋知事の1期目の足跡をたどりつつ、課題を探った。 【横田愛】 ◇地方の疲弊も著しく、明確な「絵図」が試金石に 就任当初、道内の経済情勢は97年の拓銀破たん以来の最悪期が続き、税収減と90年代の景気対策のツケで道財政は火の車だった。 高橋知事は経済・雇用の再生を最重要課題に掲げ、05~07年度で8万人の雇用を新規創出する計画を策定した。 製造業の強化に向け企業誘致に奔走し、今年2月にはトヨタ系列企業の苫小牧進出が決定。 経済指標は回復傾向にあり、高橋知事は27日「少しずつ成果が出てきた」と語った。 ただ「企業誘致で潤う地域は局所的」(道東の商工会議所会頭)で、経済界トップの一人も「製造業や農業など産業振興は遅れ、雇用は思うように増えなかった」と指摘。 経済指標に道民の実感が伴っていないのが現状だ。 道財政再建では、道職員の給料を一律10%減らし職員数を10年で3割減とすることを決めた。 27日の後援会役員会で南山英雄・道経済連合会会長は「高橋知事がいなかったらこうはならなかった」と評価した。 ただ、道職員組合が今夏実施した調査で、組合員の高橋知事の支持率は歴代最悪の6・5%と低迷。 給料削減への批判以上に「官僚的で道民の意向を無視している」「政策の特徴がない」などの声が多かった。 「現場主義」を掲げるが、財政破たんで全国が注目する夕張市に足を踏み入れていないなど、ちぐはぐさも見える。 この間、庁内各部署で新たな政策が始動した。 ただ、ある道幹部は「最終的に北海道をどうしたいというビジョンが見えない」と評する。 夕張市のみならず道内市町村はどこも財政難と少子・過疎化できりきり舞いだ。 道州制特区では今後、道の構想力が全国的に試される。 過渡期の今、トップとしてどれだけ明確な「北海道将来絵図」を示せるかが、再選を左右する試金石となる。 ◇各党動きあわただしく 高橋はるみ知事が再選出馬の意思を明らかにしたことで、各党も候補者擁立などに向け、動きがあわただしくなってきた。 ◇高橋知事後援会組織と連動図る−−自民党道連 自民党道連は既に来年の統一地方選と参院選をにらんだ総合選挙対策本部を設置し臨戦態勢を敷いている。 伊藤条一幹事長は「道連にとって知事選は最重要の選挙。 全道に張り巡らせた高橋知事の後援会組織と連動し、より一層の支持拡大を図りたい」と語る。 ◇ポスト奪還へ荒井氏擁立方針−−民主党北海道 民主党北海道の沖田龍児幹事長は「出馬は既定路線」と冷静に受け止める。 9人が乱立した前回知事選で、民主党は鉢呂吉雄氏(現同党北海道代表)を擁立。 鉢呂氏は高橋知事に惜敗した。 「知事ポスト奪還」を目指し政策の違いを鮮明にした戦いができる候補として、元農水官僚で道庁勤務経験がある荒井聡衆院議員の擁立方針を固めており、今週中にも正式に立候補を要請する方針。 来月中旬に予定している臨時党大会までに正式決定したい考えだ。 ◇独自候補の擁立、来月中にも決定−−共産党道委員会 共産党北海道委員会は、同党が加わる政治団体「明るい革新道政をつくる会」から来月中にも独自候補の擁立を決定することにしている。 ◇支援の動きが勝敗の鍵に−−公明、社民、新党大地 公明、社民、新党大地は独自の候補者は立てない方針だが、各党がどの候補者を支援するかで勝敗に大きな影響が出る。 公明党は高橋道政について、同党が主張してきた政策提言に前向きに取り組んでいると評価。 「良好な関係を築いてきた」(幹部)としており、自民党ととともに高橋知事を支援していく方向だ。 社民党は「高橋知事の政策で評価できるものはない」とばっさり。 前回は民主党候補を推薦したが、国政へのスタンスを見極めて推薦・支持を決定したいとしている。 新党大地の鈴木宗男代表も「反高橋」の姿勢を明確にしており、民主党とは知事選と参院選での選挙協力を確認している。 【有田浩子、内藤陽】 ……………………………………………………………………………………………………… ◇1期目の仕事ぶりは、専門家に聞く 高橋はるみ知事の1期目の仕事ぶりについて▽地方分権と行財政改革▽経済再建▽農業政策▽福祉・子育て支援――の各専門家に聞いた。 また、行政運営全般の通信簿をつけてもらった。 【有田浩子、内藤陽、横田愛】 表の見方は次の通り。 (1)政策の独自性(独自の発想で政策立案ができたか)(2)決断・実行力(スピード感を持ち政策を実現できたか)(3)指導力(職員の適材適所での活用、民間との橋渡しなどを率先してできたか)(4)説明・発信力(情報公開の度合い、道民に分かりやすく発信できたか)(5)地元密着度(国の言いなりではなく、道民の目線に足場を置き仕事に取り組んだか)。 5が最高点で「評価できる」との意味。 ◆福祉・子育て ◇長期的な視野必要−−地域生活支援ネットワークサロン・日置真世代表 他の福祉関係者にも意見を聞いたが、知事は福祉は専門外で「3年8カ月では採点不能」という声が大勢だった。 ただ、自身が女性だからと無理に「子育て支援と福祉をがんばります」とprする必要はなかったのでないか。 自らと同様、仕事を持つ人の育児の課題は理解できても、独りで子育てに行き詰まっている主婦の支援までは想像が及ばない。 むしろ「得意分野の財政再建に今は集中し、福祉は長期視点で考えます」と優先順位をつけ説明するのがトップの役割だと思う。 「道子ども未来づくり条例」や地域ぐるみで子育てを支える「すきやき隊」は着目は間違っていない。 ただ、中身が問題。 すきやき隊のような地域の見守り組織は高齢者にも必要、対象を限定する必要はない。 行政の縦割りを廃し、地域実態に合った作り方をすべきだ。 ◆地方分権・行財政改革 ◇再建に道筋、評価−−釧路公立大・小磯修二教授 道州制特区は、政府が迷走し非常に難しい状況の中で、(地方が国に権限移譲を求める)法律として基本スキーム(枠組み)を作らせたことは評価すべきだ。 ただ今後が正念場で、北海道が目指す自立発展の姿のメッセージを出し、どんな権限が必要なのか「中身」を詰める作業が急務となっている。 国と道がそれぞれ策定を進める次期総合計画と連動し、経済界や道民、学識経験者を巻き込んだ取り組みが必要で、中身が従来の域を出なければ評価は下がる。 市町村合併は、旧合併特例法下で道庁は完全に腰が引けていた。 新法で(市町村の組み合わせを含む)構想を作りやっとスタートラインに立った。 市町村の悩みをくみ取り向き合う姿勢が必要で、道庁は橋渡し役としてより汗をかかなければならない。 道財政改革は80点。 再建に道筋を付けたのは評価していい。 庁内の政策提案能力を高められるかが今後の課題だ。 ◆食・農業 ◇独自の基準検討を−−食の自給ネット・大熊久美子事務局長 道産食品の信頼確立を目指した「北海道食の安全・安心条例」(05年4月施行)は国内最大の食糧生産地域として消費者重視の視点に立った画期的な条例だ。 クリーン農業や有機農業の推進、食育の必要性が盛り込まれており評価できる。 知事は愛食フェアなどで積極的に北海道の食をprしており評価したい。 しかし道として将来、どういう農業を選択していこうとしているのかが見えてこない。 例えば遺伝子組み換え条例にしても、バイオ技術の振興を名目に研究を進める一方で商業栽培は規制の方向を示しており、軸足をより安全で安心な食を求める消費者に置くのか、それとも産業振興に置くのか、はっきりしない。 また国は「やる気のある担い手」として道内では10ヘクタール以上の農家もしくは農家グループに助成する制度を来年から導入しようとしているが、果たしてそれで北海道農業が活性化するか疑問だ。 道内農業の現状を理解したうえで道独自の基準を検討すべきではないか。 ◆経済・雇用 ◇民間開放をもっと−−北海道大学公共政策大学院・石井吉春教授 道内経済が最も悪い時期に知事は就任した。 外国人観光客が増えたり、自動車産業が立地したりと、回復に向けた始まりの動きが出ているが、公共事業減少の影響が強く、さまざまな政策を実施しても雇用は厳しいのが現実だろう。 道経済を抜本的に変えるには公共セクターが変わらなければならない。 道州制特区はその突破口になると思うが、まずは民間に官の仕事を開放していくだけではなく、職員を含めた「資源」を思い切って民間に移転していく発想が必要だ。 一律の給料カットはモラルを下げるばかりだ。 また地域経済の活性化には地産地消など地域内でのお金やものの循環を高める取り組みも有効だ。 この点はもっと道民にアピールしていく必要がある。 長い間、国に財政的に依存してきた道にとって、道民一人一人が危機意識を持てるかどうかが変革の鍵となっている。 ……………………………………………………………………………………………………… ◇初当選以来の歩み ■2003年 4月 知事選で79万8317票を獲得し初当選、道政史上初の女性知事となる 8月 `10|で10人死亡、1人行方不明 9月 十勝沖地震。 道東で震度6弱が2回発生。 苫小牧で原油タンク炎上 ■2004年 1月 胃がんが見つかり入院、手術 3月 道警本部長(当時)が裏金作りを認め陳謝。 知事は道監査委員に特別監査を要求 10月 都道府県初の子育て支援条例「子ども未来づくり条例」が施行 11月 札幌医大事務局長(当時)が収賄容疑で逮捕 ■2005年 5月 北海道新幹線、新青森―新函館間着工 6月 道警不正経理問題で道監査委員が道の損害額を2億4046億円と認定。 知事は道警に返還を求める 7月 知床が世界自然遺産に登録される ■2006年 1月 遺伝子組み換え(gm)作物の栽培を規制する全国初の条例を施行 2月 危機的な財政状況を受け「新たな行財政改革の取り組み」を発表。 06年度から2年間、道職員の給料を一律10%カット 4月 第三セクターふるさと銀河線廃止 5月 「道州制特区推進法案」を閣議決定 同 05年度道決算が赤字となる見通しを表明、赤字決算は道政史上初 6月 夕張市が財政再建団体への移行を表明 同 空知旧産炭地6市町が知事の許可を得ない違法な借金をしていたことが発覚。 知事は「道にも責任がある」 8月 北方領土貝殻島付近で根室の漁船がロシア国境警備艇から銃撃を受け1人死亡 10月 産業廃棄物の排出企業などに課税する「道循環税条例」施行 11月 佐呂間で竜巻9人死亡 11月28日朝刊 (毎日新聞) -