◇世田谷区長は苦言も 今月6~7日に関東地方を襲った`9|。 多摩川が増水したため、都内では世田谷区玉川1、3丁目の計1490人に避難勧告が発令された。 だが、実際に避難所に避難したのはわずか6人。 熊本哲之区長が「勧告に応えてほしい」と述べる異例の事態となった。 なぜ住民は動かなかったのか。 現場を歩き、住民の声を聞いた。 【三木幸治】 ■「恐怖感はない」 東急二子玉川駅から南に徒歩2、3分。 すぐに広々とした多摩川にぶつかった。 川沿いに広がるのは玉川1丁目の閑静な住宅街。 川からの高さは数メートルしかない。 それでも近くの女性(58)は「災害に対する恐怖感はない。 水が増えてから逃げても間に合うでしょ」と話す。 多摩川は74年、堤防が決壊して大きな被害を出した。 テレビドラマ「岸辺のアルバム」のモデルにもなった。 このときは、狛江市で民家19棟が流出した。 99年の大雨では対岸の川崎市で床上浸水。 世田谷区内では今回と同様、玉川1、3丁目の1156人に避難勧告が出たが、避難者はわずか2人。 いずれも区内で大きな被害はなかった。 ■川を見て判断する `9|では、区は7日午前5時12分に避難場所を区立二子玉川小に設置し、避難準備情報を発令。 水位が8メートル20センチを超えた午前6時20分には、避難勧告を発令し、広報車を同地区に走らせた。 だが避難者は4世帯6人にとどまった。 住民が避難しない理由は二つある。 これまで被害に遭ったことがなく、川を見て経験に基づいた判断をするからだ。 約40年前から川沿いに住む女性(60)は勧告が発令されたころ、家から川を見ていた。 「上流から流されたごみが河川敷に残っていて、水位はごみより低かった。 『水が引いている』と思い、避難は考えなかった」と話す。 「増水の経験は何度もあるし、川のことはわかる。 こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど」と苦笑いした。 近くの男性(57)も「大事な物をリュックサックに詰め、避難する準備はできていた。 だが勧告より現場の判断を優先した」と振り返った。 ■意識改革できるか 避難者があまりに少ないため、「安全・安心のまちづくり」「予防型行政」を掲げている熊本哲之区長は、「災害は予想外のことが起きる。 起きてからでは遅い」と住民に“苦言 を呈した。 同区危機管理室の萩原賢一室長も「被害が出てからでは遅い。 避難勧告の基準などは見直さず、住民の方には理解をお願いするしかない」と強調する。 これまでの経緯もふまえて、区は近く住民と意見交換の場を設ける予定だ。 だが、今月中旬には世田谷消防署の署長、副署長、課長2人の計4人が6日夕、台風の接近を知りながら「ビール1本程度」を飲み、署に戻るのが遅れたという問題が発覚。 防災意識の欠如は住民だけにとどまらない。 住民からは「避難勧告は逃げなくてもいいときに出される」「区が警察と連携してくれないと、避難しても空き巣に入られる」との意見も出ている。 住民の「意識改革」にはまだ時間がかかりそうだ。 ……………………………………………………………………………………………………… とうきょう支局・あんぐる係にご意見や情報をお寄せください。 ファクス番号は03・3212・5186です。 ……………………………………………………………………………………………………… ■ことば ◇避難勧告 災害が発生、または発生する恐れがある場合、災害対策基本法に基づき区市町村長が発令する。 強制力はない。 より緊急度が高い災害の場合「避難指示」が出されるが、強制力はない。 勧告、指示の前に避難の準備を促す「避難準備情報」が出される場合もある。 9月27日朝刊