緑の松と白い砂、そして青い海。 日本の景勝地天橋立の眺めは、悠久の時が流れているように穏やかだ。 海猫が飛びかう海岸には、さわやかな風が吹き抜けていた。 京都府の北エリアの町を歩けば、昔ながらの変わらぬ風情や地場産の味のよい食材、そして郷愁に心動かされる。 日本海はどこか寂しい印象があるが、時にはそれが心地よい。 いつまでも寄り添っていたくなるような、心に残る風景を探しに北近畿へ旅に出た。 (北村博子) 口笛を吹いてしまいそうなさわやかな晴れの朝、jr大阪駅から北近畿1号に乗り込み、京丹波・丹後方面へ繰り出した。 最初に訪れた福知山市は、明智光秀が築いた福知山城の城下町として栄えた町だ。 福知山城へ続く立派な石の太鼓橋を渡る。 城内へ進むと、遠くから「ドッコイセ~、ドッコイセ~」と大きな歌声が聞こえてきた。 「福知山音頭といいまして、光秀の命で築城したときに材料を運ぶかけ声が民謡になったそうです。 この曲にのせて踊る福知山踊りは、地元で有名なんですよ」と福知山市観光振興課の担当者。 訪れた日はちょうど撮影会を催しており、天守閣広場では三味線や太鼓のリズムが響く中、福知山踊振興会員の踊りが繰り広げられていた。 市花であるキキョウをあしらった水色と白色のそろいの浴衣が、晴れわたる青空によく映えていた。 傍らで踊り子たちの指揮をとっていた塩見美智子先生(65)は「福知山の誇る伝統の踊りを絶やさないために、楽しみながら熱心に活動しているんですよ」と教えてくれた。 踊りの本番は夏。 城前の広小路通りで毎年、踊りがにぎやかに繰り広げられるという。 昼食は城から車で5分ほどのホテルロイヤルヒル福知山へ。 地元名産の黒豆やシシ肉などを使い、素材本来のうまみを引き出した料理の数々に舌鼓をうった。 隣接する綾部市に入ると、一段とのどかな風景に。 バスで向かったのは黒谷和紙工芸の里。 廃校になった小学校が和紙工芸体験の工房に改装されている。 学校の雰囲気がそのまま残る懐かしい教室で、腕まくりをして絵はがき作りにチャレンジ。 簀桁(すげた)という道具を両腕で握り、紙の素となる液体にザブンと漬ける。 「簀桁を平行にして。 やさしく手際よく振ってね」。 スタッフの言うとおりにやればすぐにコツがつかめ、好みの色で色づけしたらもう完成。 簡単だけど味のある旅のお土産ができた。 同市内の小学生は、黒谷和紙の卒業証書を自分自身で作るという。 「10月ごろから段取りに取りかかるんですが、大変な作業なんですよ」と説明してくれた福田清館長(79)は、伝統文化を伝えることにやりがいを感じている様子だった。 この後、ホタル狩りのメッカ、上林川沿いをまたバスでのんびり移動。 舞鶴市内の舞鶴港とれとれセンターで新鮮な海の幸を満喫した後、その夜は北近畿タンゴ鉄道の天橋立駅前にある「天橋立ホテル」に宿泊。 その名の通り、ホテルからは天橋立が目の前にバッチリと見える。 天然温泉で1日の疲れをとり、新鮮な魚介類をたらふくいただいた。 * * * 翌朝は時間に余裕があったので、遠くまで松林が続く天橋立をぶらり散策。 早朝は観光客もまばらで、素晴らしい景色を独り占めだ。 「昔の松は強かったのですが、今の松はもろい。 どっしりとしているように見えますが、台風で倒れたりね。 この景観を守るための研究は日々欠かせません」。 天橋立観光協会の西村静保さんの話を聞き、美観の裏には多くの人のたゆまない努力があることを知った。 そんなことを思い浮かべながら、笠松公園から見下ろす天橋立の眺めは、一段と美しく見えた。 最後に旅の締めくくりとして、舟屋の町並みが郷愁を誘う伊根湾へ。 波が非常に穏やかな湾内ではマグロやハマチの養殖も盛んだ。 湾を取り囲むように並んだ舟屋は、海に浮かぶ長屋といった感じ。 「1階は船の格納庫と作業場、2階は住居です」と伊根町役場職員。 とはいえ船の大型化に伴って、ほとんどの船は海に浮かべられたままだった。 潮の香りの漂う湾内にある元舟屋を利用した「与謝荘(よさそう)」は観光客に人気のお宿。 予約すれば、ランチを楽しめると聞いて、寄ってみることにした。 ジャズが流れるしゃれた店内の奥には、海面すれすれのオーシャンビューのカウンターがあり、揺れる波の向こう側には模型のような舟屋、そして飛来するカモメの姿も。 味わう海の幸は絶品で、ゆったりとした楽しい時間を過ごせた。 北近畿にはふるさとのようなあたたかい町並みをはじめ、地元の人が支える景観や食材など、訪れる人の心を引きつける魅力が豊富にある。 伊根湾の優しい波のリズムが、心をほぐしてくれた。 ◇ ≪旅のメモ≫ 【天橋立】 日本三景の一つ。 約8000本もの松が茂る約3・6キロの砂嘴(さし)で形成された風光明媚(めいび)な地として知られる。 「笠松公園」と「天橋立ビューランド」からの眺めが有名。 【ホテルロイヤルヒル福知山】 露天桧風呂や地元の食材を使った旬の料理が楽しめるおしゃれなホテル。 tel0773・27・5000。 【黒谷和紙工芸の里】 入館料大人300円、小・中・高生200円。 紙すき体験は6人以上の場合は要予約。 9時半~17時(水・木曜日定休)。 tel0773・45・1056。 【舞鶴港とれとれセンター】 舞鶴市下福井にあり、道の駅を併設する大規模な海鮮市場。 舞鶴港で水揚げされた海の幸を求め多くの人が訪れる。 お土産用のほか、買ったその場で調理してくれるサービスが好評。 これからの旬はトリ貝と天然の岩ガキ。 9時~18時(季節により変動有り)、水曜定休。 【与謝荘】 舟屋を改装した民宿。 舟屋の景観を楽しみながら食事ができる。 tel0772・32・0278。